2018年8月18日(土)、8月26日(日)

わたし達の未来をつくる「アイデアソン・ハッカソン」

~世の中を変える商品開発【視覚障害を持つ方編】~

レポート・ブログ

チーム4「逃げないと死にます」のご報告

昨年の12月14日に 有限会社時代工房 柴田様より発表いただいた「逃げないと死にます」に関する概要をご報告いたします。
以下、柴田様よりいただいた本文です。

■災害と障害者

ぼくたちのチームは、
有限会社時代工房 柴田
有限会社時代工房 技術者1名
有限会社時代工房 全盲視覚障害者 小寺
広島からお越しのNVDAの開発者に携わっておいでの西本さん
学生さん1名
で、視覚障害者の問題解決の話し合いをしました。

「逃げないと死にます」の着想は、西本さんの発言がきっかけになりました。

西本さんは、2018年7月の西日本豪雨で被災をし、8月のハッカソン当日時点でも生活が常態に戻っていないとおっしゃっておいででした。激しい災害を経験した西本さんは、災害時のすばやい避難の重要性を認識し、情報弱者である視覚障害者が、自分の身を守るためにはなにかしらの工夫が必要なのでは、と問題提起なさいました。

■視覚障害者とTwitter

話し合いでは、災害時は、テレビやラジオなどの「いったん集約した情報を配信する」形式のメディアだけだと、災害の実際とのタイムラグが避けられないが、即時性の高いTwitter等のインターネットをもちいた情報収集をあわせることで、状況の切迫度合いなどを知るのに役に立つという知見が共有されました。
しかし、ぼくたちのチームの全盲視覚障害者である小寺さんは、Twitterについて以下のような理由から使いづらいと考えていました。

  • - 情報が多い
  • - インタフェイスが複雑

まず「情報が多い」こと。TwitterのようなSNS的なメディアは整理された情報が流れてくるわけではなく、不要なものも含めて、たいへん多くの情報が流れてきます。晴眼者であれば手軽にできる「読み飛ばす」という行為も、視覚障害者の利用するスクリーンリーダの環境ではより時間を必要とします。

つぎに「インタフェイスが複雑」なこと。これはのちに僕たちのチームの誤解があったことを確認することになりますが、ハッカソン当日については、「Twitterのインタフェイスは複雑」という前提で話が進みました。

Twitterは、一つのツイートあたり

  • - ツイートしたアカウント名
  • - ツイートに対するアクティビティのディスクロージャ
  • - リプライ
  • - リツイート
  • - いいね
  • - ブックマーク

と、最低でも6つのリンクがあります。Twitterのタイムラインはolでマークアップされていて、スクリーンリーダのli項目のスキップ機能を駆使しても、たくさんのリンクを相手にしないといけない状況は変わりません。

■情報の多さとインタフェイスの改善の骨子

情報が多いことについては、障害の有無にかかわらず、誰にとっても等しく多いのですが、せめて災害時には、「近所の」「災害関係の」情報を絞り込むところまではしてほしい、という要件にまとめました。

端末が返す位置情報を用いれば、位置情報付きのツイートについては絞り込みができるので、位置情報とあわせて検索をできるような仕組みがあればよいとなりました。

インタフェイスに関しては、災害時情報取得なので、コメント、リツイート、いいねなどの機能は原則不要とし、発言者を見出しとすることで見出しスキップが使えるようにし、極力シンプルにすることで対応しようということになりました。

■「逃げないと死にます」というプロジェクト名

ぼくたちのチームは、いったいどのようなソリューションが災害時避難対策として有効なのか、について話し合いました。そのなかで出たキーワードが「正常性バイアス」でした。ひとの心理には、自分に都合の悪いことは起こらないと考える傾向があり、これは「正常性バイアス」と呼ばれる働きです。「これまで避難したことはなかったから、今回も避難しなくて良いはず」という考え方は一切論理的ではないのですが、えてしてこの考えに陥りやすいということが、災害の多かった今年、メディアで訴えられました。

こういった正常性バイアスのような、避難に対してマイナスに働く心理を越えるためには、それなりにセンセーショナルな働きかけが必要であるという観点から、今回の「逃げないと死にます」というプロジェクト名が選ばれました。

■開発のながれ

Twitterアプリケーションの開発になるので、Twitter APIの利用権の取得が必要でした。しかしTwitter社の審査があり、この審査に申請から2週間ほど必要で、8月のハッカソン期間内では、着手が難しい状況となってしまいました。

幸い12月にフォローアップイベントがあり、その時にはTwitter APIの利用権も取得できていたので、ハッカソンで打ち合わせたようにプロトタイプの実装を行いました。それが以下です。
スクリーンリーダフレンドリーなTwitter検索動作サンプル(外部リンク)

位置情報とキーワードで情報を絞り込み、見出しで構造化したツイートを表示するシンプルな仕組みとして実験してみました。

■大きな誤解

「視覚障害者がスクリーンリーダで使う」ということでは、当初想定していた実装はできたのですが、12月のハッカソン発表が、当のTwitterでツイートされると、そもそものTwitterの仕様として、すくなくともインタフェイスにおいては、かなりスクリーンリーダに配慮した実装であることが指摘されました。以下がそのツイートです。
持田 徹 氏のツイッタータイムライン(外部リンク)

持田さんのツイートに対して、ウェブアクセシビリティ基盤委員会の委員長である植木真さんから反応があり、Twitterは「?」でHELPが表示され、「J」で「次のツイート」「K」で「前のツイート」といった機能が提供されていることがわかりました。

■おわりに

スクリーンリーダであっても、比較的快適に読み飛ばすことができるように意図された実装であり、オフィシャルな対応が進んでいるのであれば、あえてサポートの不確かなサービスを増やす必要はありませんので、今回のハッカソンテーマについては、僕たちは「事前の調査不足」ということでクロージングをします。

しかし、あらためてTwitterなどのSNSの重要性と、視覚障害との関わりを確認し直すことになったこの機会は、有為なものであったと考えております。

みなさんおつかれさまでした。